@.苦しみの意味なんて。

もうすぐ冬休み、教室はいつもより騒がしかった。
というのも、みんな冬休みの予定を組んでるからだ。
特に冬休み一番のイベントは、クリスマス。

「なーなっ、2人とも冬休みどうする?」

ボーッとしていた俺と大ちゃんの制服の袖を、くすけんが後ろから引っ張ってきた。
つーか、大ちゃん何考えてんだろな?
もしかして、クリスマスのこととか.....ねぇよな...?
そんな険悪な表情の俺とは裏腹で、よっぽど冬休みが待ち遠しいのか、くすけんの表情は明るかった。

「なんでくすけん、そんなに嬉しそうな顔してんの?」

先にくすけんに返答したのは、大ちゃんだった。

「ん、そうかなー、まあ冬休みって長い休みだから、なんかわくわくするんだよな、俺っ」
「ならさ、くすけん俺ん家泊まりに来いよ、歓迎するから」
「あははっ、やった!大ちゃん家、行くの久々だな」

楽しそうに会話する2人。
俺は言葉を詰まらせて、会話の流れに乗ることができなかった。
はあ、なんでいつも俺、こんななんだろ......。

俺は無性に自分に腹立たしくなって、気づくと席を思い切り立ち上がっていた。

目を何度も瞬きさせて、驚いた表情のくすけん。
俺が立ち上がった訳を理解したように、ふっと薄ら笑いを浮かべる大ちゃん。
俺はそんな2人を置いて、教室から出て行った。


「はあ...はあ......」

俺は階段を降りて、トイレ近くまで来た所で足を止めた。
なんだ....なんでこんなに、胸が苦しいんだよ。
大して走ってねぇのに、なんでこんなに息切れするんだよ。
そういえば、さっきから俺はおかしいと思う。
妙にくすけんに目がいってしまうのと、妙に大ちゃんが俺を異様な笑みを浮かべて見てくることに、苛立たしくなっていること。
あーもう、わかんねぇっ。
そう思った瞬間---

「あ、亮ちゃん!いたいた」

走ってきたのか、息切れしながら階段を降りてくすけんが俺の所まで走ってくる。

ドクン、ドクン、

なんだ.....俺、変だ。
くすけんが近づいてくる度、どんどん俺の鼓動は加速する。

ドクン、ドクン、ドクン、

苦しくて....痛い、押しつぶされそうな程ほんとに、苦しくて......
気づけば俺は、胸を両手で抑えつけていた。
それに気づいたのか、くすけんは更に俺に近づこうとする。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、

それ以上近づかれたら、俺は...どうなる?
苦しい、痛い、苦しい、痛い.....

「....亮ちゃん!どうしたんだよ、まじで!」

心配そうな顔で、くすけんが俺の肩に手を置いてきた。

「どうも、してねぇ...よ..?」
「ウソつけ!苦しそうじゃん...」

なんでだろうな、だけどなんかくすけん見ると、苦しくなんだよ...。
相変わらず、心配そうな顔で俺の肩を揺するくすけんから、俺はそっと離れた。
自然と、くすけんの手が俺の肩から離れる。

「亮...ちゃん....?」
「.....っせぇ!俺の名前..呼ぶな」

----はっ、
........俺、いまなんて.....?
気づいたときにはもう遅く、教室では笑顔だったくすけんに、今は笑顔がなかった。

「....じ、じゃあな...冬休みも、大ちゃんと遊べよ......」

語尾が震えた。
足を一歩一歩前へ進み、少しずつくすけんから離れていく。
階段辺りで大ちゃんとすれ違う。
大丈夫、俺がいなくても、くすけんには大ちゃんがいる。
少しずつおさまっていく鼓動。
どうやら、正常に戻ったようだ。
俺はそっと胸をなでおろすと、曇り空をふと見上げた。
冬の冷たい風が、妙に身にしみた。

「.........くしゅっ」

寒っ.....

俺は鼻をすすると、口を噤んだままマフラーを首に巻き付けた。



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